ふとん部屋

 まだ、空前のスキーブームを巻き起こしたあの映画が公開されるよりも前のこと、冬の一シーズンを温泉地のスキー場にあるホテルで住み込みバイトしたことがある。バイト代は驚くほど安かったが、三食付きスキーし放題でうはうはだと思っていた。しかしまあそんなうまい話はないもんで、その期待は初日から見事に裏切られることになるのだが…。

 朝は四時から仕事が始まる。終わりは夜十時。その間に休憩は食事時間を除いて5分ほど、ただ一回だけだ。スキーなんかしている時間などない。それでもなにせバイトは若い連中が集まっているものだから、仕事が引けてからは遅くまで飲み会、さらにはスキーに出る強者までいる。もちろんリフトは動いていない。ホテルはロープウエイの上部駅近くにあったので、地の利を生かして下の温泉街まで滑り、帰りは歩いて登り返すのだ。夜中にバイト連中で大浴場を占拠し、大混浴大会となったこともあった。深夜まで騒ぎ、そしてまた翌日は朝四時から仕事が始まる。こんな毎日が続けば、いくら若くても常に寝不足、頭は四六時中朦朧としていた。

 そこのホテルでは、客室の一室を利用して布団置き場にしていた。もちろん布団収納場所は客室以外にちゃんとあるので、今考えるとなぜ貴重な客室を潰して布団置き場にしていたのか疑問がある。しかし前述の通り毎日が朦朧とした中で、客室に近いからだろう程度で深く考えることはしなかった。この布団部屋、バイト連中の間では重宝されていた。ルーム係もバイトばかりで社員はいなかったものだから、故意に鍵をかけることはせず、いつでも利用できるように開放していたのだ。もう一度言うが、なにせ10代と20代前半のエネルギー有り余った奴ばかり、当然のことあっちの方も溜まりまくる。客の女の子をナンパした場合はいいのだが、バイト同士でカップルになった場合にはちょっと困る。そこで、この布団部屋を利用していたのだ。

 二月に入り、客も減ってかなり余裕が出てきた頃のこと、いつものようにバイト連中がホテルのバーに集まって飲んでいた。一月で去った者もいるが、いつも通りの顔ぶれ。この中に、今回のバイトでできたカップルの二人がいた。暫くは一緒に騒いでいたが、暫くするといつの間にか姿を消した。この二人は周知の仲だったので、誰もが「布団部屋」だなと承知していた。実際、後で聞くと布団部屋に入る二人を見た者もいる。特に珍しいことではない。そしてやがて、夜中二時くらいには疲れて解散、各自バイト部屋に戻って爆睡。

 翌日から、二人は仕事に現れなかった。バイト部屋にもおらず、布団部屋を確認したがそこにもいない。ホテルから忽然と姿を消してしまったのだ。バイト部屋に二人とも荷物は置きっ放しなのに、その日以降二度と姿を見せることはなかった。きつい仕事なので、途中でバックレる奴が何人かいることは事実だ。この時も、二人は逃げたのだろうということで結論が出された。荷物が残っているので疑問はあるが、仕事に忙殺されてすぐに二人のことは忘れられて行った。

 ただ、その日以降ひとつ変化したことがある。二人が消えた翌日から、布団部屋に鍵がかけられるようになったのだ。

 とにかく毎日の仕事がきつかったのでこの時は深く考えなかったのだが、今になって思い出せばあまりにも不審な出来事だった。何故、客室を潰して布団部屋にしていたのだろうか?何故、荷物を置いたまま二人は姿を消したのだろう?もしかして、バイトを管理していた上の人間は理由を知っているのかもしれない。もっと詮索しておくべきだったなと、今ごろになってつくづく思う。

 三月末でバイトが終わった後も、暫くこの時のバイト仲間と付き合いがあった。誰と誰が結婚しただの噂が耳に入ってきていたのだが、消えた二人に関して行方を聞くことはついになかった。

 


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